「サイバーセキュリティ産業振興戦略」とは?国産製品が育たない構造をやさしく解説

2025年3月、経済産業省が「サイバーセキュリティ産業振興戦略」をまとめました。企業の守りを固める話ではなく、日本から有望なセキュリティ製品が次々に生まれる状態をつくる、いわば「供給する側」を強くするための政策パッケージです。背景には、国内で使われる製品の大半が海外製で、国産の新製品には買い手がつきにくいという構造があります。

目次

要点

  • 国内で使われているセキュリティ製品の大部分は、アメリカをはじめとする海外企業が開発したものです。
  • 買い手がつかないから儲からず、儲からないから投資できない悪循環が続いてきました。
  • 戦略は政府調達での実績づくりから人材育成までを束ね、国内企業の売上高3倍増を掲げました。

なぜ「産業を育てる」戦略なのか

サイバー攻撃への備えは、企業の自前の努力だけで完結しません。実際の対策は、外部から買う製品やサービスを通じて実現されます。だからこそ戦略は、セキュリティビジネスの活性化を日本の安全強化に欠かせない条件と位置づけています。

理由はもうひとつあります。日本を狙う攻撃には独特の傾向が見られる場合があり、国内に担い手がいれば、脅威情報を国内で蓄積、分析して日本の状況に合った製品を届けられます。デジタル分野の輸入超過が広がるなか、国内供給と海外販路の拡大が赤字解消にも効くという狙いも示されました。

国産製品が育たない悪循環

日本の商流は独特です。システムインテグレーター、つまり企業の情報システムを組み上げる事業者が海外製品を輸入し、システム構築に合わせて一緒に売る形が主流です。販売の流れをSI事業者が握るため、開発側が自力で売り先を開く余地は限られます。

買う側の事情もあります。製品の性能を技術的に見極めるのは普通の企業に難しく、結局は政府機関や大手企業での導入実績と価格が決め手になりがちです。新しい企業の製品はここで候補から外れます。

戦略はこの状態を、買い手がつかないので儲からない、儲からないので投資が足りず競争力が落ちる、という悪循環だと言い切りました。日本企業の売上高に占める研究開発費が他国より少ない傾向も、同じ根から来ます。

戦略が掲げる3つの柱

  • 国産製品・サービスが活用されるための環境整備
    政府機関などが有望な製品を試験的に使う機会をつくり、そこで生まれた実績を打ち出すことで、市場に入るハードルを下げます。有望な製品や企業を審査、表彰する仕組みの検討も進めます。
  • 優れた国産製品・サービス創出のための発掘・後押し
    技術や社会課題の解決につながる事業の種を掘り起こすため、コンテスト形式の事業化支援を行います。商流の中心にいるSI事業者と開発ベンダーが出会う場も設計します。
  • 成長の原動力を生む基盤の強化
    製品開発やシステム提供を担う人材を質と量の両面で強化します。国家資格の情報処理安全確保支援士では得意分野を見えるようにする「アクティブ・リスト」の整備を挙げ、海外進出の後押しも据えました。

10年先までの道のりと数値目標

戦略は時間軸を3段階に分けています。約3年以内は担い手を増やす「裾野の拡大」、約5年以内は「競争力の強化」、約10年以内は「安全保障・経済政策への貢献」です。入口を広げ、中身を鍛え、最後に国の安全と経済に返すという順番です。

到達点としては、国内企業の売上高を3倍に増やす目標が置かれました。金額では約0.9兆円から約3兆円超への拡大です。

公共セクターの仕事にどうつながるか

この戦略は、省庁が旗を振るだけで完結しない構えです。産業の生態系をつくるには民間の各主体が自律的に動くことも重要だとし、内容を政府全体の政策文書に反映することを目指すと明記しました。

こうした戦略の土台には、民間コンサルティング会社が受託した調査事業の報告書があります。市場構造を調べ、諸外国の政策と比べ、課題を政策の選択肢に落とし込む。公共セクターのコンサルタントが担うのは、まさにこの部分です。

よくある質問

この戦略は企業にセキュリティ対策を義務づけるものですか

いいえ。焦点は市場の「供給」側、つまり製品を作って届ける力の強化です。企業に対策を求める規制やガイドラインは、別の政策として並行して進められる位置づけです。

国産製品が増えると、利用する側には何が変わりますか

選択肢が広がります。戦略が描く将来像は、利用する企業が自社の状況やリスクに応じて優れた製品を選べる環境です。実績と価格で決めるしかない状態から、中身で選べる状態へ移すことが狙いです。

まとめ

サイバーセキュリティ産業振興戦略は、攻撃を防ぐ方法ではなく、防ぐ道具を誰が作るのかを問い直した政策です。実績がないと売れず、売れないから育たないという循環を、政府調達と発掘支援、人材育成の3方向から断ち切ろうとしています。公共政策が産業構造そのものに手を入れる典型例です。

出典:経済産業省「サイバーセキュリティ産業振興戦略」

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