「GX2040ビジョン」は、令和7年2月に国がまとめた長期戦略で、令和5年7月の「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」を改訂したものです。最大の論点は、排出量取引制度が2026年度から本格稼働し、化石燃料賦課金が2028年度から導入されるという負担の時間軸が示された点です。公共政策が民間の投資判断を動かす事例として整理します。
要点
- GX2040ビジョンは、令和5年7月の「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」を改訂した国の長期戦略です。
- 10年間で20兆円規模の先行投資支援を行い、150兆円規模の官民投資を呼び込むことを狙いとしています。
- 排出量取引制度は2026年度から本格稼働し、一定の排出規模以上の企業は業種を問わず対象になります。
GX2040ビジョンとは何か
GXは、脱炭素化を産業の競争力づくりの機会として捉え、エネルギーと産業構造と投資の仕組みをまとめて組み替える考え方です。
出発点は2023年2月の「GX実現に向けた基本方針」で、今回のビジョンは、将来の見通しに対する不確実性がますます高まっているとの認識のもとでそれを長い時間軸に引き直したものです。背景は投資の停滞で、1990年代以降の日本経済がいわゆる「失われた30年」と呼ばれる状況にあり、国内投資は30年間に及び大きく停滞したと率直に書かれています。
20兆円の先行投資と150兆円の官民投資
資金面の枠組みは、10年間で20兆円規模の先行投資支援策によって150兆円規模の官民投資を呼び込む「成長志向型カーボンプライシング構想」です。国は企業のGX投資の前倒しを促すためにGX経済移行債を発行し、研究開発や設備投資を後押しします。
2026年度に本格稼働する排出量取引制度
影響が大きいのは、2026年度から本格稼働する排出量取引制度です。これまで自主参加だった枠組みが、一定の排出規模以上の企業については業種等を問わずに一律に対象とする仕組みへ変わります。対象の判定は法人単位の排出量を基礎に行い、その水準はCO2の直接排出量10万トンとされています。
対象になると即座に費用が増えるわけではなく、政府指針における望ましい排出削減の水準を達成する限りは負担が生じない仕組みとされています。足りない分は削減が進んだ企業から排出枠を買う形になり、取引価格は中長期的に炭素価格を徐々に引き上げていく前提で上限価格と下限価格が設定されます。負担の導入も段階的で、化石燃料賦課金が2028年度から、発電事業者への有償オークションが2033年度からです。
公共調達と自治体が担う役割
脱炭素で作った製品は値段が高くなりがちです。そこで、公共部門が自ら率先してGX製品を始めとした先端的な環境物品やサービスを調達することが初期需要を創出する上で重要だとされています。公共工事でも低炭素型コンクリートやグリーンスチールといったグリーン建材の積極的な活用方策を検討するとしています。
自治体の動きも制度に組み込まれました。「GX率先実行宣言」を行い主体的に取組を進める地方公共団体には、GX推進のための政府支援を優先的に適用するとしています。地域に密着した地方公共団体が主導する地域脱炭素の取組を加速する必要があるとも述べています。
公正な移行と人材
最後の章は「公正な移行」です。産業構造の転換に伴い、労働者が高度化されたサプライチェーンで引き続き活躍できるよう取組を進めることが重要だとされ、成長分野への労働移動の円滑化支援、在職者のキャリアアップのための転職支援、リスキリング支援が並びます。支援する側についても、脱炭素化支援に関する資格の認定制度の普及と促進を進めるとしています。
よくある質問
排出量取引制度の対象にならない企業には関係ないのでしょうか
直接の義務は生じませんが、取引先を通じて影響が及びます。ビジョンはサプライチェーン全体での排出削減を促進するための仕組みを検討するとしており、一方で、中小企業に不当な負担を押し付けるような取引に対しては政府が一体となって是正に取り組むとも明記しています。
GX2040ビジョンで決まったことは、もう変わらないのでしょうか
見直しを前提にした文書です。EBPM(証拠に基づく政策立案)などの手法を用いた適切なモニタリングを行うとされ、制度対象事業者が毎年度報告する排出量の実績などを基礎に、不断の見直しを実施していくと書かれています。
まとめ
GX2040ビジョンは、脱炭素を環境の話から産業と投資の話へ組み替えた文書です。支援を先に出し、炭素への負担を段階的に導入し、役所の調達と自治体の実行で市場を立ち上げる一続きの設計です。制度の節目はすでに年度まで示されているので、原典を通して読んでおくと今後のニュースが追いやすくなります。
出典:GX2040ビジョン 〜脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂〜(経済産業省)
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