スタートアップからの公共調達が動き出す 入札資格の緩和と自治体モデル事業

経済産業省が2026年3月にまとめた「スタートアップ育成に向けた政府の取組」は、国や自治体が「買う側」としてスタートアップに向き合い始めたことを示す資料です。政府調達では入札参加資格が緩和され、柔軟な調達の仕組みも置かれました。令和8年度からは、自治体での調達を後押しするモデル事業も始まる予定です。

目次

要点

  • 政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、人材、資金、オープンイノベーションを柱に政策を進めてきました。
  • 政府調達では、等級を越えた入札参加と、新技術を持つスタートアップとの随意契約という二つの道が開かれました。
  • 次の焦点は自治体の調達で、実践ガイドの作成に続いてモデル事業が用意されています。

「スタートアップ育成5か年計画」が土台にある

出発点は2022年です。政府はこの年を「スタートアップ創出元年」と銘打って政策を進め、同年11月には今後5年間の官民による集中支援の全体像をとりまとめました。これが「スタートアップ育成5か年計画」で、人材、資金、オープンイノベーションを柱に据え、投資額を5年で10倍にする目標を掲げています。

企業数は25,000社へと増加し、過去最多になったと報告されています。一方で、エコシステムが国内に小さく閉じ、大きく成長するスタートアップが不足しているという課題も率直に書かれています。数を増やす段階から、育った企業を大きくする段階へ論点が移っています。

補助金ではなく「市場をつくる」という発想

見逃せないのは、政府調達を政策手段として使う考え方です。資料は、政府が主導して製品やサービスの市場と需要を創出することが重要だと述べ、同時に政府の側もスタートアップが持つ高度な新技術を活用して、多様化する行政課題への対応力を高める必要があると整理しています。

補助金で開発を助けても、売り先がなければ企業は育ちません。行政が最初の顧客になれば、企業に実績が残り、行政には課題解決の手段が増えます。

政府調達で開かれた二つの道

  • 入札参加資格の等級を越えた参加
    技術力のある中小企業者等は、自身が保有する入札参加資格よりも上位の等級の入札に参加できます。国の入札は規模に応じた等級で参加案件が決まるため、設立間もない企業は大型案件に手が出せません。その壁を外す措置で、対象は令和6年3月に拡充されました。
  • スタートアップ技術提案評価方式
    高度かつ独自の新技術を有するスタートアップ等との随意契約の仕組みで、令和6年に関係府省庁等で申合せのうえ運用が始まりました。随意契約は競争入札を経ずに相手を選ぶ契約方式で、代わりがいない技術を使いたい場面で機能します。

対象になるのは、SBIRの特定補助金等の交付先、JICの出資先等、J-Startup選定企業等です。公的な支援や選定を与信の代わりに使い、技術力を見極める手間を省く設計です。

次の舞台は自治体の調達

自治体側では、まず情報の整備が進みました。「行政との連携実績のあるスタートアップ100選」が2023年4月に作成され、「自治体と地域課題解決に取組むスタートアップの官民連携に向けた実践ガイド」も作られています。

2026年度からは、地方公共団体とスタートアップの連携、調達の促進のためのモデル事業が実施されます。狙いは、自治体内の体制整備や原課(その業務を所管する現場の部署)の意識醸成によって、その自治体で事例が継続的に創出される環境をつくり、他自治体へ展開することで官民連携と公共調達の促進につなげることです。

公共セクターの仕事にどう効くか

制度が整っても、前例のない相手と契約する判断、仕様の書き方、議会や住民への説明、効果の測り方は現場に残ります。自治体の課題を調達できる形に翻訳し、公募や契約の設計を支え、導入後の効果を測って他の自治体に展開する。行政の制度と民間の事業の両方が分かる人の出番が、この接点で増えます。

よくある質問

随意契約が増えると、調達の公平性は保たれるのですか

資料が示す仕組みは、高度かつ独自の新技術を有するスタートアップ等を対象とした「スタートアップ技術提案評価方式」です。誰とでも随意契約ができるわけではなく、技術の内容を評価する手続きを置いた方式です。

スタートアップと縁がない自治体にも関係がありますか

関係します。モデル事業は他自治体への展開を図ることによって官民連携と公共調達の促進につなげるとされ、先行事例を横に広げることが前提です。

まとめ

スタートアップ政策は、お金を出す段階から、行政が顧客として買う段階へ重心を移しつつあります。国で入札資格の緩和と随意契約の仕組みが整い、次は自治体でモデル事業が動きます。器ができた後に必要になるのは、課題を調達の言葉に直し、契約として成立させ、効果を説明する実務です。

出典:経済産業省「スタートアップ育成に向けた政府の取組」(2026年3月)

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